まずは見ているだけでいい

 

 誰の言葉だったか忘れたが、ともかく外国の偉い人の言葉に、

  「教えるのに最もよい方法は、良い手本を見せることだ」

というのがある。

 

 この言葉を最近初めて聞いたとき、今の自分の仕事に照らし合わせて、こんなことを考えてみた。

 

 たとえば生徒が質問に来たとする。そしてその質問が、「こんな解き方をしてみたけど正しいか」というような鋭いものではなく、ただ式変形に混乱しているような質問だとする。

 そんなとき、こちらは四の五の言わず、「まあ見ててくれ」とか言いながら、とにかくもう一度、その式変形を丁寧にやってみせる。

 もしもそれでも疑問が残っているようならば、多少言葉遣いやウェイトのおき方を変えてみて、もう一度同じことをやってみせる。

 説明は必要最低限にとどめ、基本的には式変形をただ見せるだけである。何度かそれを繰り返すと、質問に来た本人はなんとなく感じがつかめてきて、「じゃあもう一度自分でやってみます」と言って帰っていく。そして後で聞いてみると「できました!」という答えが返ってくることが多い。

 

 もちろんケース・バイ・ケースであるが、これが最初にあげた言葉の良い例になっているんじゃないだろうか。

 

 駆け出しの頃の自分は、このような質問を受けたとき、つい例え話なんかを織り交ぜて、いろんな視点での説明をたくさんしてしまっていた。もちろんそれで分かってくれる生徒もいたのだろうが、逆に混乱が増してしまった生徒も少なからずいたのかもしれない。

 見ているだけでよいというのは、聞く話が少ない分、生徒の受け取る情報量が少ないということだ。それはつまり、混乱の可能性も少なくなるということである。

 さらに同時に、こちら側が使うエネルギーも少なくて済み、まさに一石二鳥である。こんな言い方をすると、おっさんになったと言われそうだが。

 そういえば日本にも、「習うより慣れろ」とか「百聞は一見にしかず」などの言葉がある。冒頭の言葉は教師視点、こちらの言葉は生徒視点、というように視点の違いはあるが、どの国でも同じような意味の言葉がある。昔の人はよく言ったものだ。

 

(2007.01.08)

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