受験生へのはなむけ3
一か月ほど前、卒業生の一人がふらっと顔を出した。その日はたまたま授業が少なくて時間があったので、一時間ほど彼の相手をしていた。
彼は学校ではもともと文系選択をしていたのだが、理系に進もうと一念発起し、塾の授業だけで数学3Cまで学んだ、なかなかの強者である。
成績自体はそんなにスゴイわけではなかったが、最後の最後で彼も満足するような大学に合格でき、嬉しく大学生活を迎えた。そんな彼との会話の中で、面白いなと思ったことをいくつか書いていこうと思う。少々頭でっかちなところもあるが、彼のキャラクターを知る人間から見れば、それもまた彼らしい。なので、そのときはどうか大目に見てあげてほしい。
●実用性があることに気づけると、納得できる。
特に物理で、「力のつりあい」とか「モーメント」などを、高校では一応学んだものの、なんとなく紙の上のことだけでモヤモヤ感があった。
だが、テレビでよくやっている鳥人間コンテスト(琵琶湖の上で人力の飛行機を飛ばし、距離を競うコンテスト。大学の研究室などが多く出場する)などを見て、「ここでつりあいが取れているから長く飛べるのか!」などと、その理論を実際に応用した場面に出会ったとき、モヤモヤ感がなくなったのだそうだ。
●知れば知るほど、広さを知る。
彼にとって高校時代は、「早く成績をあげて、合格しなくてはならない」という気持ちにとらわれすぎて、勉強が苦痛以外の何物でもなかったそうだ。
ところが大学に入ってからは「入試」のような期限があるわけではない。時間をまったく自由に使えるので、数学や物理など、改めて寝食も忘れて本を読み、問題を解き、ひたすら学び続けていった。そうすると、今までばらばらだった公式や計算が、頭の中でどんどん一つの線につながっていくことに気づいていったそうだ。
事実彼が大学で使っている本やノートを見せてもらうと、当時の彼と比べて格段にスムーズに問題を解いた跡があった。
そして彼が気づいたのは、新しいことを知れば知るほど、「俺はまだ知らないことがたくさんある」ということだった。
●無限だから、面白い。
だが、知らない世界が広すぎるからといって、決して悲観することはなかった。むしろ、もしも「あとこれだけやればすべてが分かる」という量を知ってしまったら、逆にやる気が下がるのだという。
物理にしろ数学にしろ、知らなくてはならないことや、まだ知られてないことがたくさんあるからこそ、面白いのだそうだ。自分の勉強できることが無限にある、それが嬉しくてたまらないということだった。
ちなみに彼は「世の中のことが解明され尽くして、知られていないことが何もなくなってしまうのが心配」と言っていたが、僕は、それはないと答えておいた。
受験勉強という、期限付きの勉強をしていると、どうしても否応なくイライラしたり、悲観的になったりするものだ。僕自身も当時のこの時期は相当神経質になっていた。この彼も入試直前のときは、こちらも声がかけづらいほどぴりぴりしていた。だが、顔を見せてくれた日の彼は、それとはまったく対照的な穏やかな顔をしていた。
ひとたび大学に受かれば、勉強に期限はない。自分のやりたい勉強をやりたいだけやればいいし、逆に、まったく勉強しなくても大学生活は送れる。どちらにしろ自由な中でやる勉強というのは、僕自身にも経験があるが、結構楽しいものだ。
受験生の皆さんも、4月からは自分がそこに続くのだと信じ、最後を乗り切ってくれると嬉しく思う。
(2006.02.15)
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