数学のセンス

 

 数学のセンスの持ち主とはどんな人かと問われれば、ただ一つ「やってはいけないことは、やらない」人のことだと思う。

 よく誤解があって、数学のセンスがあるというのは、難しい問題で悩んでいるとき、突然「神のお告げ」のように「解法をひらめく」ことだと思われがちだということだ。逆に言えばセンスがないとは、そのような「ひらめき」がないことだと捉えられがちである。

 だが、そういう意味での「センス」というものは、高校数学の範囲では存在しない。いわゆる「ひらめき」というのは、地道にいろいろな問題を何題も解き続け、培ってきた経験をもとにして得られるものだからである。だからどんな人でも努力することで、「ひらめき」を得ることができる。

 では冒頭の意味におけるセンスを持っていない人は、どのような計算をしてしまうのか。例をご紹介しよう。

 

  1.数学2三角関数
    勝手に「展開」して、 としてしまう。
    (正しくは加法定理という定理を用いて、 とする)

  2.数学Bベクトル
    勝手に「両辺を同じ文字で割って」  が成り立っているとき、 としてしまう。
    (そもそも、そのような計算はできない)

  3.数学A場合の数
    678は各桁の和が6+7+8=21で7の倍数であるから、678自身も7の倍数である、としてしまう。
    (3の倍数と9の倍数ならばそれが成り立つことを知り、勝手に他の数にも応用してしまったのだろう)

  4.数学3積分
    勝手に「積を分配」して、 としてしまう。
    (和や差なら  は可能。上の積分は正しくは「部分積分」という操作をする)

 

 まだまだ挙げればきりがないが、これらはすべて実際自分の生徒がやっていた例である。二番目のベクトルの例などは、大文字で書かれているAやBはふつう平面上(空間内)の点を表すので、という表記がそもそもおかしく、この子は本当にベクトルというものが分かっているのだろうかと心配になってしまう。

 普通の教師ならばその時々で、「やっていい計算・だめな計算」というのを必ず紹介する。例えば一番目の三角関数の例など、自分などは口をすっぱくして、「勝手に展開なんてできないよ」と注意するだろう。

 ならば、そのような事態はなぜ生ずるか。新しい単元を習えば新しい記号が登場する分、計算方法に新しいルールがあるはずなのに、「括弧があればともかく展開できる」など、今までと同じルールがすべて成り立つということを信じきっているからである。いやむしろ、「新しいルールがある」なんて夢にも思っていないといったほうが正しいのかもしれない。だから、教師の注意など耳に届かないのだろう。

 教師は毎回大声を上げて注意などしないかもしれない。例えば四番目の積分の例ならば、「関数の積の積分は、部分積分を使って出来る場合もある」と言うくらいだろう。でもその時点で「そうか、積の積分は勝手に分配できないんだ」と気づいて欲しいのが本音である。

 そして例に挙げたような計算を平気でやってしまう生徒に限って、というか当然のごとく、数学の点数は取れない。

 したがって、数学のセンスがない人というのは、「やっていい」という計算以外のことを勝手にやってしまう人と言える。ならば逆にセンスがある人というのは「やっていいと言われたこと以外は、勝手にやらない」人のことだろう。

 もちろん、そんなことを意識しなくても「特に注意されなくても、自分はきちんとルールを理解している」という人もいるかもしれない。しかしそういう人の多くは、せっかく授業に来ているのにあまり教師の話も聞かずに、勝手に問題を解いている。そして見事に間違いの穴にはまってしまう。

 これを読んでいる皆さんで心当たりがあれば、どうか注意して欲しい。そして数学の点がなかなか伸びないと悩んでいる人でも、少しでも計算方法に疑問を生じたら、自分勝手なルールを作って計算したりせず、学校や塾の先生にどんどん質問して欲しい。そのようにして問題を解き続けることによって確実に力は伸びる。そう信じて勉強し続けて欲しい。

 

(2005.11.15)

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